The formation of the Ocean〜海のできかた〜

Ikumi Togawa WORK in PROGRESS  継続する創作の場所

'14 冬の旅 「山形」

 旅の日記が煮詰まって来たので、書きます。

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私が初めて山形に行ったのは、2/13日。出発したのは、寒い寒い12日の深夜。理由はとても単純。「山に行きたいから」。その衝動一つで、急遽、バイト代の封筒をひっくり返して夜行バスを予約し、山形へ向かった。

夜の都心を進む夜行バスは、守られている様な、隔離されている様な、不思議な気分になるのりものだった。キラキラした商店街はいつも通りだったけど、外国の景色を見ている気分になって、カーテンに潜って、ずっと窓の外を見ていた。私はここを離れて、これから山のあるところに行けるんだと思って、嬉しくなった。

山形駅に到着したのは、13日の朝5時半。極寒。周りに温かい場所も見当たらず、一旦駅の待合室にいった。そこで路線図と時刻表を見た。20分後くらいに、山寺駅行きの電車があることがわかったので、行ってみることにした。

山寺。(帰ってから調べたことによると、)山寺は正しくは宝珠山立石寺というそうで、貞観2年(860年)清和天皇の勅願によって慈覚大師が開いた、天台宗のお山だそう。そんな下調べもせず、直感だけで行ったため、あてもなく、とりあえず駅を降りた。雪がしんしん降っていた。駅の案内板にお寺への道が書いてあった。止まっていると寒くてふるえるから、誰もいないまっくらやみの中をただ「登山口まであと◯メートル」の表示を頼りに歩いた。辺りが明けていく様子に期待した。やがてお寺を見つけた。お参りをして、登山口を探す。その間に、記念写真を撮った。それが上の写真。(これを撮るために3回尻餅をついた。)登山口を発見。開門は午前8時と書いてある。今はまだ6時半。でしたが、もう登るぞ、と時間外訪問者用のお金箱が置いてあったので、ちゃんとお納めして、登りはじめた。足跡のない雪山道。声のしない冷たい木々に、強さを感じた。しばらくして右からバサッバサッと物凄い大きな羽音。何という鳥かな、茶色くって大きかった。山の鳥。鳥図鑑を見てみようっと、あ、ヤマセミという鳥かもしれないな。

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つらら。かわいいつららと違う。結構怖いものだ。それからまた、まだ足跡のない山道を歩いた。しばらくして立ち止まって振り返った。

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  下の町。おもちゃみたいだった。家も、線路も、川も、みんなちっぽけで、指でつまめそうだった。かたつむりの移動した跡がアスファルトに残るように、人っていう生き物がたどった跡のように思った。山は、黒い太い輪郭で囲われていて、墨で描いた絵のようだった。太陽はオレンジの豆粒みたいで、山は白い息を吐き続けていた。みんな本物なのに、絵のように思った。

それから一番上、芭蕉院を目指した。途中雀の親子とのぼる。鬼の足跡みたいな洞窟を見つける。雪に埋もれた芭蕉院を発見する。私は"無音"に包まれる。はじめてだった、本当にな、んにも鼓膜に当らない。雪も、粉みたいなものが、話さないで降っていた。微笑んでいた。電車の音も車の音も話し声もない。超音波みたいなのもない。たまに鳥が鳴いた。私は雪に寝て、空を見ていた。いつもより近い空は風に乗って流れていた。安心した。

しばらくそこにいて、降りることにした。すると僧侶を見かけた。僧侶はそこに住んでいた。家族がいた。子どもはそこから幼稚園に通っているみたいだった。山の上から毎日降りる。生活ってさまざまなんだなあと思った。下の方に観光客が5人くらいいた。もうさっきの無音はなかった。降りてから、お腹がすいた。3時間も経っていた。お土産屋さんに人がいた。話しかけたら、芋煮あるよ〜と言って、急いで作ってくれた。お腹まで味が届いて、とっても美味しかった。

 

山形駅に戻る。9時。東北芸工へ向かう。東北で物をつくる人達に会う。人は、原点に帰りたいと思う。だからここへ来る人は多いと言う。紅花の種をもらう。あたたかくなってきたら種を蒔こう。

 

18時。最後に公衆浴場へ。駅の観光案内所はとっくに閉まっていて、売店の女の人が親切に地図を描いてくれた。湯だけのお風呂は大分ぶり。銭湯での人の仕草は、その土地を語る。私がよそ者であることを際立たせる。それでも、白い湯気の中で、こんばんは、と言える。居心地がいいと思う。

 

帰るのが名残惜しい。けれど帰らなくては行けないと思った。今いる場所でやるべきことがあると思った。また山を求めたときに来よう。きっと山は私の背骨をしゃきっとたててくれるだろうな。