The formation of the Ocean〜海のできかた〜

Ikumi Togawa WORK in PROGRESS  継続する創作の場所

観る者の言葉 4/25

地中という、宇宙

 ワークインプログレ渡川いくみ「a black space 黒い絵」レビュー(初日十九時半〜回)

                                 取材・文 原千夏

 

 

舞台端には、開場からずっと読み手(「言葉」)が座っている。渡川が、読み手を舞台奥へ移動させる。スタートの合図はない。客席後方で、何かがガサゴソ動く音。そして、異様な形の岩の塊のようなものが、ズルズルと舞台へ登場する。

岩の塊から生まれた渡川は、錫色(すずいろ)の仮面をつけて踊る。赤銅色の溶接用マスクをつけた田辺が、つぶやくように言葉を紡ぐ。渡川の動きと田辺の声は、時に柔らかく混ざり合い、時にぴったりと触れ合う。渡川の小さな身体の不思議さ。飛び跳ねる、背伸びをするなど大きくなろうとするほどに小さく見える。しかし、クライマックスの時のように逆光の中ただ歩いてくる姿は、なんだかひどく大きな存在に見える。人が、自身そのものであろうとする時、その身体は巨大な宇宙である。

 

シーン毎は、照明や音が、全体感を崩さない程度に切り替わる。客席付近や左右の空間も多用され、視点の移動があり楽しい。また、視覚はもちろん、物体が立てるガサゴソとした音やダンサーの声、読み手の声、マイクのノイズ音、動き回る時に立つつむじ風の感覚など、五感がフルに刺激される。壁に投影されていた四角の光は、何を意味しているのだろうか?

 

渡川は「上からたれ下がっているビニールを引っ張る」「吊るされている作品をやぶく」などの上下の動きが多い。最初に出て来た岩の塊や、終盤にくわえていた白いひもを使って、左右や斜め上の空間にもっと広がりがあればより面白いと感じた。

また、透明なビニール袋から出て来た渡川が、自分自身の腕に黒い線を引くシーンは衝撃的だ。腕に書くだけなら、視線がそこに集中するだろう。しかし、腹部や足を黒い線が埋め尽くしても面白いかもしれない。

 

木の枝や作品の配置は、バランスがとれている。舞台左側に鏡があるため、透明で広さのある空間が生まれ、そこに有機的な諸作品が浮遊しているように見える。しかし、そこは水中ではない。暗い土の中に木の根がはり巡り、密かに息づいている様子を想起させる。土のエネルギーを、舞台という一つの画面に落とし込んだような「a black space 黒い絵」。そこには、地中という宇宙がある。作品としてのまとまりが感じられ、落ち着いた印象さえある初日だ。今後どのように変化が起きるのか期待される。

(2014.4.25.Fri)

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撮影:佐藤さあや