The formation of the Ocean〜海のできかた〜

Ikumi Togawa WORK in PROGRESS  継続する創作の場所

観る者の言葉 4/26

答えの海 感覚の川

 ワークインプログレ渡川いくみ「a black space 黒い絵」レビュー(二日目十八時〜回)

                                 取材・文 原千夏

 

床に麻袋が転がっている。人が入っているらしく、時折ごそごそと動く。「よっ!」、元気な挨拶。ゴーグルとスクール水着を身につけ、白いタオルをマントのようにまとった渡川が、軽やかに登場する。「わたし、泳ぎたいんです」と言いながら、座っている人々の間をぬうように、舞台をあちこち移動する。そして観客に、あなたはどこから来たのか、なに人なのかと問いかける。また渡川に導かれて踊り出す者、ガムテープをぺたっと貼られてしまう者もいる。ぎくしゃくとしたやりとりを通して、不可思議な空間をその場にいる全員が共有する。

 

「なにか書いています。近寄ってみてください」という言葉に誘われるように、観客は田辺の元へ集まる。すると田辺は、渡川に名札をつけてしまった。名前がつき自由に踊ることができなくなった渡川の代わりに、麻袋の中にいた正村はゆっくりと解放され、激しく動き始める。田辺がホースを吹くと、内臓に血液を送り出すような音が出る。シュコー、シュコーという空気入れの音。ちゃぷん、ちゃぷんという効果音。昨日まで地中だった場所は、今日は誰かの体内のようだ。

 

渡川は一人、光沢のあるゆったりとした衣装を着て、舞台後方の小さな窓へと向かう。青く静かな世界の中にゆっくりと吸い込まれる。ついに外へ出てしまった渡川が、窓の向こう側へと歩いて行くシーンは非常に印象深い。しばらくしてこちら側へと帰って来た渡川は、たくさんの花を抱えている。大野一雄さながら、永遠に若く、震えるようにやわらかな存在に見える。

 

渡川、田辺、正村の三人は、持ち上げたり引きずったりしながらむきだしの木を運ぶ。ライトを持った正村は二人の足元を照らすが、田辺は前が見えずに怯え、それを支えようとする渡川は揺れ動き、それぞれがそれぞれの役目をうまく果たせない。木の枝は少女二人によって痛々しく踏みつけられ、若芽をはじけさせる。彼らは、ぎこちなく、それでも運び続ける。

 

制作をしているとき、わたしたちはどこへ向かっているのだろう。ひたすらに思考し、自分への問いかけの中にいつのまにか溺れてしまっている。それは、水か体液か、土か。今日の公演で、観客はワークインプログレスの持つ無限大の可能性を目にしたことだろう。対話、役名のない人間同士の交流、散らばる物、人々。観客があの場で感じた、演者ととても近いような感覚は一体何だったのだろうか。残りあと二日、いかにまとめてくるか興味深い。

(2014.4.26.Sat)

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撮影:土居千明