The formation of the Ocean〜海のできかた〜

Ikumi Togawa WORK in PROGRESS  継続する創作の場所

観る者の言葉 4/28

不自由さを乗り越えた先に

 ワークインプログレ渡川いくみ「a black space 黒い絵」レビュー(四日目十九時半〜回)

                                 取材・文 原千夏

 

ビニールの巨大なカーテンで仕切られている空間を、人が行き交う。音響ブースはむき出しになり、マイクスタンドがからまっている。床には、赤い板、緑の芝生マット、ガラスの壷、インク瓶、木の枝、髪の毛、原稿用紙などありとあらゆるものが散乱し、積み重なっている。ビニールの反射で薄明るい空間に、照明が、ぼんやりと演者たちの姿を浮かび上がらせている。

 

「わたしはわたしを超えられるのか?」と繰り返す田辺に、渡川は「そういう怖い声やめてくれますか」、「そういう個人的なことはやめてくれますか」と怒った声で返答する。前半は、田辺の言葉や正村のパフォーマンスが強く、ストーリーの中心となるべき渡川の存在が薄い。渡川が自由にならない空間をふがいなく感じていることは、観客にも伝わる。場の中心になってしまうほどに、大きく超然とした田辺の声。舞台の雰囲気を徹底的に崩しにかかる正村。渡川に遠慮が見えたのに対し、田辺・正村は何かがふっきれたように堂々と動く。

しかし前半から一転、渡川は、ソロダンスのシーンの中で不自由さから解放された気持ちのよい動きを見せる。押さえ込んでいたエネルギーを存分にほとばしらせて踊る姿は、彼女が場の空気を一瞬にして変えてしまうほどの実力と存在感を持ったダンサーだということを示す。

 

音響は、舞台の中で生まれた音を反復させるなど実験的で、ノイズ音を操作する装置は観客の手にも渡る。渡川と正村によってめちゃくちゃにされ、コードを引き抜かれたこの装置は、ジジジ、ピピピ・・・と壊れたおもちゃのような音を発し、しまいにはたたき壊されてしまう。即興とはいえ、緊張感のあるシーンだ。

観客は、三人の様子を、カーテンによって仕切られたそれぞれの空間の中から見る。カーテンが捲り上げられ、舞台全体が見渡せるようになることもあるが、すぐにカーテンは垂れ下がってしまう。邪魔そうでもあるが、カーテンにひっかかった木の枝の下を渡川がくぐる時などは空間に複雑さが生まれ、演出として非常に効果的に見える。また、様々な場所に客席がしつらえてあることは面白いが、ダンサーの様子があまり見えない場所に座ってしまった人にとってはフラストレーションともなり得るので、入念な設定が必要だろう。

 

終盤、巨大な紙のロールを運び入れるシーンは印象的だが、さらにより良い見せ方ができるだろう。不自由さを受け入れ、空間を濃密にかき混ぜ、この三日間で整えたものをすべて壊しきったことによる新たな発見は、八月の個展で結実するはずだ。

(2014.4.28)

 

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(撮影 佐藤さあや)